新潮文庫、平成30年7月刊 著者は、東京大学農学部林学科卒、同大学院生命科学研究科を経て、森林総合研究所で鳥類学の研究をしています。軽快の語り口のエッセイに定評があり、前著「そもそも島に進化あり」はすでにご紹介しました。本書では、現生鳥類の形態や生態を研究する鳥類学者からみた、鳥類が恐竜から進化した過程を大胆に想像(妄想?)して、恐竜の実像を明らかにしようとする興味深々の物語です。これは恐竜学への挑戦ではない、熱いラブレターでした。
恐竜は、中生代三畳紀に地球上に出現し、白亜紀の末に絶滅したとされています。しかし、恐竜は絶滅したのではなく、鳥類として現代に生き続けていることがわかってきました。恐竜には、大きく分けて鳥盤類と竜盤類のグループがありますが、鳥類はその竜盤類の中の獣脚類から進化しました。肉食性で2足歩行をするテラノサウルスの仲間です。その恐竜は爬虫類から進化しました。主竜類というグループで、現生のワニの仲間です。恐竜学は日進月歩で、発見された地層から年代を推定し、僅かな骨の部分から全身を推定し、行動や生活を推定します。科学的解釈で仮説を立てますが、他の生物学のようにDNA分析もできず、不確実性は避けられません。ワニとトリの間を空想する、最大の魅力がそこにありました。
恐竜と鳥類の関係が注目されたのはシソチョウの化石の発見でした。1861年のことです。その後論争が続きましたが、叉骨、気嚢、羽毛、脚の指などの共通性が認められて、「鳥は恐竜である」と確認されたのです。恐竜に羽毛があったことは衝撃的でした。飛行のための翼よりもデスプレイの可能性がありました。とすれば色もあったでしょう。鳥から想像すると、白が有力です。体が大きければ捕食されるリスクは少なく、メリットが多いからです。
中生代には、すでに空を飛ぶ爬虫類の翼竜がいました。恐竜や鳥とは全く別の系統です。羽ではなく、皮膜を広げて飛行しました。次第に巨大化して翼長は10m以上になりました。たぶん魚食性で、滑空が得意の空の覇者でしたが、恐竜と同時に姿を消してしまいます。
鳥と恐竜は、ともに2足歩行をします。恐竜は太くて長い尾でバランスをとりました。食いちぎる口の力が発達すると、腕は重心をとる上で邪魔になり、退化してゆきました。一方、鳥の祖先は持て余す前肢を翼に変える方を選びます。不要器官のリサイクルだったのです。
鳥は空を飛ぶ方向に進化しました。羽毛を翼に特化し、指を捨てました。歯を嘴に変えて頭を軽くし、尾羽を短くしました。脚は極端に細く、骨は結合して数を減らし、中空にして徹底的に軽量化を図りました。飛ぶための筋肉は、酸素を多く貯める赤色筋にしました。
恐竜時代を終わらせた要因は、2011年の「サイエンス」に載った論文で、小天体衝突説の合理性が証明されました。それまでは、空は翼竜に、地上は恐竜に支配されていましたが、彼らの突然の絶滅で生態系が一挙に変わりました。鳥類の多くも絶滅しましたが、一系統だけが生き残ったのです。理由は、彼らが腐食連鎖に立脚していたためらしい。光合成で生きる植物から連なる生食連鎖よりも有利でしょう。また小型のほうが、少ない食物でも生きてゆけます。そして鳥類のさらなる進化が始まりました。ところが今、人気では恐竜が断トツです。異議ありと。鳥類学者の著者が、恐竜学者と名乗って出た、痛快な一書でした。「了」